2011年7月15日金曜日

平野政吉美術館の移転理由は何か 1


 財団法人平野政吉美術館が平野政吉美術館の移転要請をされたのは、2007年(平成19年)11月であったが、主な移転理由は、平野美術館にある藤田嗣治の大壁画「秋田の行事」を再開発地区の集客の目玉にしたい。現美術館が老朽化し10年以内の耐震補強のための大規模改修が必要となる。県財政が厳しく、10年後の改修費の確保が困難になる可能性があり、今回移転したほうがよいなどであった。

 「秋田の行事」は藤田嗣治の最大の作品で、観る者を圧倒する迫力ある大壁画である。昭和12年当時の秋田の人々の暮らし、祭り、年中行事などが、藤田の特徴ある線と色彩で描かれている。この「秋田の行事」を集客の目玉にということであるが、現美術館と新美術館建設予定地は、僅か200メートルしか離れていない。しかも、現在地のほうが、秋田市で一番の観光名所、千秋公園の入口にあり、集客面でも優れている。わざわざ再開発地区の商業施設と隣接した場所に移さなければならない合理的理由は見当たらない。また、現在、平野政吉美術館(現秋田県立美術館)に展示されている「秋田の行事」は、床から6尺(約1.8メートル)の位置に据えること、両端を迫り出して据えること(アールを付けること)を藤田嗣治から直接助言を受け展示しており、美術館自体が「秋田の行事」を展示、鑑賞することを主目的に建設されたものだ。「秋田の行事」を鑑賞するうえで、最高の展示状況にあると言える。この美術館から「秋田の行事」を移設しなければならない正当な理由があるのだろうか。また、「秋田の行事」に限らず、藤田嗣治作品を集客目的に考える発想は疑問視される。

 次に、美術館の建物が老朽化し、10年以内の耐震補強のための大規模改修が必要であるとのことだが、建物の耐震診断さえ結局実施されなかった。また、昨年2月と今年2月の県議会において、知事は「現美術館の文化施設など美術館以外の活用も可能だ」と発言している。それならば現美術館の移転は必要ないのではと多くの人が思ったはずだ。また、美術館としては使用不可で、他の施設なら可であるという合理的理由がどこにあるのだろうか。
 県財政が厳しく、10年後の改修費確保が困難になる可能性があると言う点については信じ難い気がする。今回移転した場合、始めは県有地との相殺により県の支出がほとんどないと説明していたものが、昨年の県議会では9億2千万円の支出に変わり、それでも計画の見直しや検討さえしようとしなかった。著名建築家に依頼したために数億円の設計費を支出したり、移転宣伝費にも多額の支出をしている。財政上有利だという説明は、真の理由ではなかったようだ。



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